静かな休日。いつも通り暖房が効きすぎた部屋で、ぬくぬくとインターネットに興じていた。カーテンの隙間から青空が見える。寒気が入り込まないよう急いで締め切った。 出し抜けにケータイが鳴った。とんでもない音量で、雷が落ちたかのようだ。仕事時の設定のままだった。幸い大したことはなかったが、自分が顔を出さないとどうにもならぬらしい。まさに晴天の霹靂だ。 こうなれば仕方がない。職場への道すがら用事をこなしていくとしよう。 リストを手帳に書いた。食料に次いで重要なのが風邪薬の購入だ。私は喉が弱い、この時期は薬なしではいられない。切らしてしまったので補充に急を要する。 まず郵便局で払い込みをした。用紙とお金を渡してイスに座る。どうもうまくいかないようで、受付嬢が奥に引っ込んだり戻ってきたり忙しない。その間に客がどんどんやってきて別の窓口でスムーズに捌かれていく。自分の用紙はあっちへ行ったりこっちへいったり。 あれからどれくらい経ったのか。ずいぶん経った気がする、ここから出れない気がして来た。ここのイスはベッドがわりになりそうだが・・・、なんて考えていたら「大変お待たせしました」と声がかかる。ようやく手続きが終わった。仕事の用事はあっという間に済んだ。 昼はとっくに過ぎている。腹も空いた。呼び出しを食らった腹いせや調理の手間を考えると、どこかのラーメン屋に行くのが妥当に思えた。それと各種買物、すべての条件を満たすのが少し遠くにあるショッピングセンターへ行く事だった。早速そっちのほうへハンドルを切る。 現地到着。入り口にラーメン屋がある。駐車場の向こうに黒い雲がやってくるのが見えた、もうすぐ降るのかもしれない。車を停め時計を見ると13:55。店に目をやると「ランチタイム(12:00~14:00)はライス無料!」とある。間に合いそうにない。「ライス無料のサービスなんてオレには不要」というような、ふてぶてしい態度で入店した。バンダナをまいた店長が威勢よく迎えてくれる。カウンター席に座り、水を運んできたウエイトレスに注文する。その後すぐ店長がカウンター越しに、「無料なんでどうぞ」と茶碗いっぱいのライスをくれた。私は思わず「あっ、どうも」と卑屈な笑みを浮かべた。素晴らしいサービスだ、食事を済ませ満足して店を出る。 敷地内のスーパー、ホームセンターでも納得の買物ができた。ここに来てから長い時間が経った気がする。帰る前にやりのこしがないかどうか点検、リストの存在を思い出した。風邪薬がまだだ。辺りを見渡すと、敷地内にドラッグストアがあった。ここは本当に何でも揃っている。 ドアが開くと白衣を着た数人が、驚いた顔でこちらを見る。他に客はいない、唯一の客である自分はさしずめ闖入者というところか。 居心地が悪かったので、さっさといつものやつをレジへ持っていった。風邪薬を見るやメガネの女性店員が、ブツブツ呪文でも唱えるように怪しげな錠剤を作り始めた。空のカプセルにドロリとした液体を詰め、黄色の液体を入れたコップと共に差し出したのである。さっきの呪文は恐らくこんなところだろう。「あ、風邪ですか。それならこれを試してみてください。きっと効きますよ。さあどうぞ!」。 サービスもここまで来ると気持ち悪い。そもそもこれを飲み込む義務が自分にあるのか?そう自問する前に体が勝手に反応し、気づいた時には飲み終わっていた。栄養ドリンクの味がする。確かに効きそうではある。 全て用事を終えたはずだが、急に立ち読みをしたくなった。敷地内には本屋もある。雑誌を手に取ると止められなくなった。とても面白い。この世にこんな興味深い事があったなんて!と分別をなくしたようにページをめくる。ふと、後ろを振り返ると、女性店員が不思議そうに自分を見ている。いけない、こんなことをしていたら日が暮れてしまう。 あわてて外に出た。深深と雪が降っている。太陽が弱弱しく、遠くでナリを潜めているのが見えた。自分がここから一生出れないような気がした。